~通りがかりのフリーライター通信vol2~

山田製玉部の品質管理課長、大谷徳則さんの朝は6時、石臼の前で始まります。伊達巻の生地の仕込みをするためです。

看板商品の伊達巻は、創業当初から石臼を使い手作業で生地を作り上げます。

「フワッとした軽やかな食感は、石臼でないと出せない」と大谷さん。

一般的なステンレス製ミキサーでは、作る工程のなかで発生する熱の上昇をコントロールしづらい一面があります。一方で石臼では、回転数をコントロールし温度の上昇を抑えながら作ることができます。

大谷さんの右手がハンドルを回し始めると、石臼に投入されたスケソウダラのすり身に程よい粘り気が出てきます。回転スピードを速くすると荒く削れ、遅くすると細かく削れる石臼。気温の高低によって、スピードの緩急をつけますが、その工程は経験だけがよりどころです。

「卵を入れる前、すり身を擦り込む時点で生地のできばえが決まる」と大谷さんは言います。

スケソウダラの“粘性”が、伊達巻の焼き加減や食感に大きくかかわってくるからです。

そこに少しずつ投入されるあざやかな山吹色の国産の卵。スケソウダラの白に山吹色が加わり、混ぜるほどになめらかなクリーム色になっていきます。

粘り、色味、硬軟…液面をじっと見ながらハンドルを回し攪拌すること40分。空気を抱き込み、ふわりと軽やかな生地ができあがります。

「毎朝、同じように生地を仕込むのですが、生地の”表情”は毎日違います。焼成担当(厚焼き職人)の手に渡る瞬間は今でも毎回ドキドキなんですよ。微妙な生地の仕上がりの違いが焼き加減や食感に影響するので、昔は焼成担当からやり直しと言われることもありましたね」と大谷さんは笑います。

上質なスケソウダラの白身
少しずつ卵を混ぜていく
鮮やかなクリーム色に仕上げる

「丹波黒入り伊達巻」は、このこだわり抜いた生地に、大粒で艶やかさが特徴の高級黒豆、兵庫県丹波産「丹波黒」をふんだんに盛り込みました。

「丹波地方で出会った丹波黒。兵庫県産の卵。地産地消にこだわり、自信を持っておすすめできる逸品です」(大谷さん)

関西の伊達巻は関東より甘味が控えめ。フワッとほどよい甘味の生地に、うまみが凝縮されて濃厚、ほっくりとした豆が溶け合った伊達巻は、ワインや焼酎、日本酒などお酒に合わせると今までにないマリアージュを体験できます。ケーキの代わりに、コーヒーや紅茶に合わせてティータイムにもぴったりです。中でも私のおすすめは、甘口の白ワインとのマリアージュ。ぜひお試しください。

(執筆:松村 枝美)

この記事を書いた人

株式会社山田製玉部